トーマス「みんなで潜ろう。ナナミの海底案内。」





ナナミ「みなさん。こんにちは。海の旅、おサカナはあなたのお友達ツアーへようこそ。ガイドはわたし、ナナミ・シンプソン!」
ティコ「キュー。」
ナナミ「あはっ、ごめんティコ。ガイドはナナミ・シンプソンとティコです。これでいいでしょ?」
ティコ「キュー。キュー。」
ナナミ「え?どうして海の中でしゃべっていられるのかって?今日はね、特別にダイビングスーツとマスクをつけてるんだ。マスクの中にマイクもあって、これでバッチリみなさんとお話できるってわけ。」
ティコ「キュー。キュー。」
ナナミ「じゃあ、ティコもダイビングスーツを着てるのかって?あはっ、い、いやそんな細かいことは気にしない気にしない。じゃあ、さっそくもっと深いとこに行ってみましょう。」
シェリル「ちょーっと、ナナミ。一人で行くなんてズルいわよ。わたしだってガイドくらいできるんだからぁ。」
ナナミ「シェリルさん!」
トーマス「へへっ。ぼくも来ちゃったもんねー。」
ナナミ「トーマスも?」
アル「おーい、お前ら。早くしないと置いてくぞー。」
ナナミ「あ〜あ。アルまで。ちょ、ちょっと待って。ガイドはわたしなんだよ?」
ティコ「キュー。」
ナナミ「あ…ごめん。わたしとティコなんだよぉ?アル!!」
シェリル「さあ、トーマス。わたし達も出発よ〜。」
トーマス「はい。」



ナナミ「ええと、だいたい水深30メートルくらいのとこまでやってきました。どう?すごいでしょう。」
ティコ「キュー。」
ナナミ「え?それじゃガイドの役割果たしてない?あ…そうか。ん…よし。えー、右手に泳いでおりますのが、ツノダシでございまーす。白、黒、黄色のコントラストと、スッとのびたツノが特徴でございます。そして、左手に見えてまいりましたのが。色とりどりのコーラル。珊瑚の林でございまーす。」
ティコ「キュー。」
ナナミ「えぇ?なんかどこかの国の修学旅行の生徒引き連れたバスガイドみたいって?もう!ティコったら文句ばっかり。」
トーマス「ねえ、ナナミ。あれはなんなの?ほら、イソギンチャクの中でまるでかくれんぼしてるみたいに出たり入ったりしてるやつ。」
ナナミ「ん?あれはクマノミよ。」
トーマス「クマノミ?」
ナナミ「うん。クマノミとイソギンチャクはとっても仲良しで、お互いに協力しあって生きてるの。」
トーマス「へぇ〜。…ああっ!あれは?あれも魚なの?なんか翼のとれた竜みたいな…。」
ナナミ「あれはねぇ…」
シェリル「それなら、わたしがお答えしましょう。」
ナナミ「あ〜!ガイドはわたしなのにぃ。」
ティコ「キュー。」
ナナミ「あっ…ご、ごめん。わたしとティコなのにぃ。」
トーマス「シェリルさん、わかるの?」
シェリル「ふっ、わかるに決まってるじゃない。わたしはね、シェリル・クリスティーナ・メルビルよ。わたしの辞書に『不可能』と『借金』の文字はないわ。(ジェームス、お願い。)」
ジェームス「どうぞ、シェリルお嬢様。準備は整っております。」
シェリル「(あのね。魚っていうより、細長いヘビかなにかみたいで、口は尖ってるの。)」
ジェームス「え〜、口が尖っていて、と…ええと。」
シェリル「(もう、早く!ジェームス。)」
ジェームス「あ…しょ、少々お待ち下さいませ。」
シェリル「(そんなに待ってられないのよ!)」
トーマス「シェリルさん、シェリルさんったらぁ。」
シェリル「え?あ…な、なに?」
トーマス「『なに?』じゃなくて、ツアーのお客さん達、さっきからシェリルさんの答を待ってるんだよ。」
ナナミ「わかんないならガイドのわたしが代わりに答えて…」
シェリル「ダメーッ!!ダメダメダメ!!(ちょっと、ジェームス、まだなの?)」
ジェームス「も、申し訳ございません。なにぶん情報が少のうございますので。え〜、ヘビみたいで口が尖っていて、と。」
スコット「それなら、タツノイトコじゃないかな。」
ジェームス「は?タツノイトコ!?あの…タツノオトシゴなら聞いたことがありますが。」
スコット「同じヨウジウオ科の仲間ですよ。」
シェリル「(あはっ…助かったぁ。)エヘン。あれはねぇ、タツノイトコという魚でございまーす。」
トーマス「タツノイトコ?タツノオトシゴなら知ってるけど…。」
シェリル「タツノオトシゴの仲間よ。」
ナナミ「あーあ。答えられちゃった。」
ジェームス「間に合って良うございましたねぇ。お嬢様。」
トーマス「あれ?今の声…。」
シェリル「ま、まずい。」
ナナミ「シェリルさん!ジェームスさんに聞いたんだね。」
トーマス「あぁ!マスクの中に通信機が。」
シェリル「あはは…バレちゃった?でも、答を教えてくれたのはジェームスじゃなくてスコットだけど。」
ナナミ「父さん!」
スコット「あはは…ごめんごめん。」
ジェームス「お嬢様、やはり知ったかぶりはよろしくなかったようでございますね。」
シェリル「あーあ、大失敗。」
ナナミ「やっぱりガイドはわたしだね。」
ティコ「キュー。」
ナナミ「あ…ごめんごめん。わたしとティコだね。…はぁ…疲れる。」
アル「ったく、お前らなにゴチャゴチャやってるんだ?」
トーマス「あれ?そういえばアル、どこ行ってたの?さっきから姿が見えなかったけど。」
アル「決まってんだろ。宝捜しよ。」
シェリル「宝捜し?このへんに宝があるの?」
アル「俺のカンじゃあるね。」
ナナミ「アルのカンじゃ当てにならないね。」
アル「言ったな。ようし、意地でも見つけてみせようじゃねえか!」
ナナミ「えへっ、でも面白そうだな。よーし。えー、ツアーに参加のみなさま。ここで急遽コースを変更し、宝捜しツアーにいたしまーす。」
アル「よーし、感じる感じる。宝は右の方角に眠っているぞ。」
ナナミ「アルが右って言うならきっと左ね。左にまいりまーす。」
アル「おいおい!そりゃないだろ!ナナミ〜。」



ナナミ「みなさん。だいぶ深いところまで潜ってきました。」
シェリル「なんか薄暗くてよくまわりが見えないわ。」
トーマス「大丈夫。ぼくライト持ってきましたから。…よいしょっと。」


カチッ

一同「あぁー!!」
アル「た・た・た・た」
ナナミ「た、た、宝よ!」
トーマス「眩しい!」
アル「キャッホー!!」
ナナミ「みなさん、すごいです!沈んでボロボロになった難破船から、金貨や宝石がこぼれ出てます!!」
シェリル「スコット!ジェームス!聞こえる?宝よ!ほんとに宝を見つけたの!!」
スコット「それはすごい!!」
ジェームス「本当でございますか、お嬢様!ああ、そうとわかっていたら、私もご一緒いたしましたのですが。」
アル「こんなことなら…スクイドボールで来れば良かったぜ。ま、とりあえず持って帰れるだけは持って帰って、と。おい、ティコ!」
ティコ「キュー。」
アル「ちょっと口を開けてみてくれ。」
ティコ「キュー。」
アル「お〜、でっかいお口!へへへ、なあティコ。ものは相談なんだが、お前、口の中に宝を詰め込んでぺペロンチーノ号まで戻ってくれないか?」
ティコ「キュー。」
アル「あぁ、やっぱりダメか?」
ティコ「キュー。」
アル「ああっ、いてえ!!おい、噛みつくなよ。ちょっと言ってみただけだって。お前の歯は鋭いんだからな。イテテテテテッ!こらっ、やめろって!!」
シェリル「すごいわぁ…こんな大きなエメラルド見たことない。」
トーマス「ナナミ、見て。船に描かれてるこれ。ドクロマークだよ。」
ナナミ「この船、海賊船だったんだ。」
アル「…となると、船の中にはもっとすごい宝が隠れてるかもしれねえぞ。」


ギィィ

アル「よっと。」
トーマス「アル、力持ち!」
アル「よぅし、と。おう、ちょっくら中へ行ってくらぁ!」
スコット「シェリル。」
シェリル「なに?」
スコット「アルに伝えてくれ。暗がりに入っていくなら気をつけろって。難破船はいろんな生き物が好んで棲み処にするからな。」
シェリル「アル。アル!聞こえる?」
アル「な、なんだぁ?」
シェリル「スコットが暗がりににはなにか生き物がいるかもしれないから、気をつけろって。」
アル「わかった!!けど、もう遅いぜ!」
シェリル「え?」
アル「た、助けてくれぇ〜!!」
トーマス「アルが戻ってきた。」
ナナミ「大変!アルの後ろ見て!!」
トーマス「あ…なんだあれ?」
ナナミ「足だよ…タコの。」
トーマス「えぇ!ま、まさか…。」
ナナミ「トーマス、ライトつけて!」
トーマス「う、うん。」


カチッ

トーマス「うわぁ〜!!大ダコだぁ〜!!」
ナナミ「怪獣みたい!!」
シェリル「あぁ、こっち来ないで!わたしタコ嫌いなのよ〜!!」
アル「げぇ!!あぁ〜!!」
ナナミ「アル!」
トーマス「アルが捕まっちゃったぁ〜!」
アル「げぇ〜!!は、離しやがれぇ!俺を喰ってもうまかねえぞ!!…うまかないってのに!」
ティコ「キュー。」
ナナミ「あ!ティコ!」
ティコ「キュー。」
トーマス「おーっと、ティコが大ダコに体当たりした!!大ダコがティコに目を向けたー!運命のゴングが、今まさに打ち鳴らされようとしています!」


(ゴングの音)

トーマス「ゴングが鳴ったー!!ティコ、果敢に大ダコに立ち向かっていく。おーっと、鋭いキバで噛みついたー!!いかがですか?解説のナナミさん。」
ナナミ「そうですねえ。」
トーマス「おーっと、大ダコが足でティコをふっ飛ばした!どうですか?解説のナナミさん。」
ナナミ「そうですねえ。」
シェリル「わたしが思うに、大ダコのパワーもなかなかですが、ティコの噛みつき攻撃もハンパじゃありませんからねぇ。いい勝負じゃないでしょうか。」
ナナミ「あぁ!解説はわたしなのに〜!!」
シェリル「ふふ、わたしはゲストよ、ゲスト。」
トーマス「飛び入りゲストのシェリルさん。ありがとうございました。」
アル「おめえら!俺の命がかかってるっていうのに、よくもそんな余裕でいられるな!」
ティコ「キュー。」
アル「あ〜!!あまり俺を振り回さんでくれ!気持悪くなってきた〜!!」
ティコ「キュー。」
トーマス「おーっと。ティコ、今度は足ではなく頭に噛みついた!!これは痛そうだ!大ダコは頭を振り回している!!」
アル「わ〜!!」
トーマス「わ〜!大ダコ、ついにアルを放り出した!」
アル「た、助かったぁ〜!!」
トーマス「どうですか?解説のナナミさん。」
ナナミ「ティコ。戻っておいで。もういいから。」
ティコ「キュー。」
ナナミ「さあ、みんな!ペペロンチーノ号に戻ろう。」
シェリル「えっ、戻るの?せっかくティコが優勢なのに。」
ナナミ「アルを放してくれたんだもの。これ以上傷付け合うことないわ。」
アル「じゃあ…宝は?宝はどうなんだい?」
ナナミ「宝は大ダコさんのもの。きっと長い間大切に守ってきたんだ。それを取ろうとしたわたし達の方が悪いんじゃない?」
アル「そんなぁ…おい、シェリル。なんとか言ってくれよ。宝を置いてくなんてとんでもないよなぁ?」
シェリル「別にわたしは構わないわよ。」
アル「なに?」
シェリル「わたしが欲しいのは冒険やスリル、宝を見つけるときのワクワクと高鳴る気持ちで、宝そのものじゃないもの。」
アル「なにー!?」
シェリル「それにわたし、これ以上タコといるのはイヤなの。」
アル「仕方ない…こうなったら、ナナミの目を盗んでいつかこっそり…。」
ナナミ「アル、なんか言った?」
アル「い、いや。なにも。」
ナナミ「そう?じゃ、今度こそ本当にペペロンチーノ号に向かって出発!!」
トーマス「えー、いかがでしたか、みなさん。海の旅は面白かったでしょ。実況はトーマス・ルコントがお届けしました。」
ナナミ「あぁっ!トーマス!ガイドはわたしだって言ってるでしょ!」
ティコ「キュー。」
ナナミ「あ…ごめん。わたしとティコだって。…もう、ティコったらしつこいぞ。」
ティコ「キュー。」
ナナミ「しつこいからしつこいって言ったの。」
ティコ「キュー。」
ナナミ「だって。」
ティコ「キュー。」
ナナミ「あぁ!バカって言ったな!」
ティコ「キュー。」
ナナミ「バカって言った方がバカなんだよ!」
ティコ「キュー。キュー。」
ナナミ「あぁ!また言った!しかも二回も!」
シェリル「あ〜あ、まるで兄弟喧嘩ね。じゃあ、みなさん。またいつか機会があったら、海の旅ツアーに参加してくださいね。ガイドはシェリル・クリスティーナ・メルビルでした。」
ナナミ「あぁっ!シェリルさんズルい!」
ティコ「キュー。」